1.はじめに|成果も課題も、ありのままに伝える
2026年3月、Nienteは今後の活動方針をまとめた「3カ年計画」を策定しました。
私たちが目指しているのは、ひきこもり状態にある本人や家族が、自分たちに合った支援や社会資源と出会い、それぞれが望む人生を歩んでいける地域づくりです。
そのために、Nienteだけで支援を完結させるのではなく、行政や専門機関、地域団体などと協力しながら、地域全体で支えられる仕組みをつくっていきたいと考えています。
3カ年計画の1年目となる今年度は、これまでの活動を継続しながら新しい取り組みを実践し、その成果と課題を検証する年と位置づけました。
計画の策定から約半年が経過した今、活動を振り返り、中間レビューを行いたいと思います。
その前に、Nienteが活動報告において大切にしていることをお伝えします。
私たちは、うまくいったことだけでなく、うまくいかなかったことや、現在抱えている課題についても、できる限り正確に発信することを大切にしています。
支援活動の広報では、どうしても成果や成功事例が中心になりがちです。しかし、どれほど良い取り組みであっても、すべての人に合うとは限りません。また、活動を継続しているからといって、十分な成果が生まれているとも限りません。
Nienteも例外ではありません。
良い変化が見られた取り組みもあれば、参加者のニーズに十分応えられていないと感じる取り組みもあります。成果があったのかどうか、現時点では判断できないものもあります。
だからこそ、確認できた事実と、私たち自身の考察や仮説を区別し、成果も課題も共有していきたいと考えています。
その目的は、Nienteの活動を良く見せることではありません。
本人や家族が活動の内容や課題を知ったうえで、自分たちに合った支援や居場所を選べるようにすることです。
Nienteが合う方もいれば、別の団体や専門機関の方が適している方もいるでしょう。それぞれの支援には異なる役割や強みがあり、一つの団体ですべての問題を解決できるわけではありません。
私たちは、Nienteを選んでもらうこと自体を目的とはしていません。
本人や家族が、自分たちに合った支援と出会い、自分らしい人生を歩んでいくこと。それが私たちの目指すところです。
今回は、そうした考え方に基づき、この半年間で確認できた成果と課題、そして残り半年間で取り組みたいことをお伝えします。
2.中間レビュー|半年間の成果と課題
今年度は、本人の居場所と家族会の継続運営を土台として、本人の新しい活動機会の創出、支援者向け勉強会、啓発活動、関係機関との連携強化に取り組んできました。
半年間を振り返ると、特に進展が見られたのは、支援者同士の学びと地域連携です。
一方、本人や家族への直接的な支援については、活動を継続するだけでは十分ではないことも見えてきました。
① 支援者同士の学びと地域連携
今年度、特に手応えを感じているのが「ひきこもり支援ハンドブック勉強会」です。

9月に開催した今年度第3回の勉強会には、行政職員や社会福祉協議会職員、民生委員など、さまざまな立場の11名が参加しました。
参加者全員が継続参加者であり、回を重ねるごとに活発な意見交換が行われるようになっています。
当初はハンドブックの理解を深めることを主な目的としていましたが、現在では、参加者が自ら考え、経験を共有し、所属する組織を超えて学び合う場へと発展しています。
特に印象的なのは、支援の現場で生じる疑問や悩みについて、それぞれの立場から意見を交わす機会が生まれていることです。
また、福岡県ひきこもり地域支援センターや春日市など、関係機関との協力も進んできました。
こうした取り組みを通じて、支援者同士が継続的に学び、互いの考え方や役割を理解することが、地域の支援体制を充実させる一つの方法になるのではないかと感じています。
ただし、勉強会での学びが実際の相談対応や支援の改善にどの程度つながっているのかは、まだ検証できていません。
今後は、参加者同士のつながりが具体的な協働につながるのかという点にも注目していきます。
② 本人の新しい活動機会「居場所の半歩先」
今年度から、新しい取り組みとして「居場所の半歩先」を始めました。
安心して過ごせる居場所を土台に、本人が興味のあることや日常生活の課題について学び、体験する機会をつくる活動です。
これまで、社会保障制度や運転免許など、参加者の希望を取り入れたテーマで実施してきました。
また、参加者の状況に応じて、予定していた学習内容を変更し、近況報告や個別の対話を中心に過ごすこともありました。
一方で、参加人数は徐々に減少しています。
活動内容が本人のニーズに合っていないのか、勉強会という形式が適していないのか、あるいは別の理由があるのか。現時点では判断できていません。
参加者の希望を取り入れることと、実際に参加したいと思える活動をつくることは、必ずしも同じではないのかもしれません。
まだ始めて半年ほどの取り組みです。短期間で成果を判断するのではなく、今後1〜2年かけて内容や運営方法を改善していきたいと考えています。
③ 本人の居場所と家族会
本人の居場所と家族会は、今年度も継続して開催できています。
しかし、半年間で参加メンバーの半数近くが入れ替わりました。

Nienteでは、参加しなくなった方を積極的に追いかけたり、アンケートによって理由を確認したりすることはしていません。
以前はアンケートを実施していたこともありますが、肯定的な回答が中心となり、実際のニーズや課題を十分に把握できているのか疑問を感じるようになりました。
現在は、参加者の様子や自然な会話、その場の雰囲気などを参考にしながら、活動内容を見直しています。
そのため、参加しなくなった理由は正確には分かっていません。
本人が新しい活動に進んだ可能性もあれば、活動内容や居場所の雰囲気が合わなかった可能性もあります。
また、明るく交流する雰囲気が負担になる方や、継続参加者同士の輪に入りにくい方がいる可能性についても、考える必要があります。
今後は、参加者を追いかけることなく、多様な人が自分に合った過ごし方を選べる環境について検討していきます。
家族会についても、課題が見えてきました。参加後に気持ちが楽になったという声をいただく一方で、翌月には再び同じ不安や悩みを抱えて参加される方もいらっしゃいます。
安心して話せる場所があること自体にも、大切な意味があります。
しかし、家族の多くが求めているのは、単に不安を聞いてもらうことではありません。
子どもがひきこもり状態から回復し、将来的には親亡き後も、経済面を含めて自立し、生きがいや楽しみのある人生を送れるようになること。その実現を願って参加されていると感じています。
もちろん、家族が望む回復と、本人が望む人生が必ずしも一致するとは限りません。
だからこそ、家族の希望だけで本人の進む方向を決めるのではなく、本人自身の意思や希望を尊重する必要があります。
安心して話せる場所を提供することと、本人や家族が抱える問題の解決に近づくこと。この両方を考える必要があります。

④ 支援の限界を見極められなかったことへの反省
この半年間の活動を振り返るうえで、特に反省していることがあります。それは、自分の力量を超える相談まで引き受けてしまったことです。
Nienteは、ひきこもり支援を主軸とする団体です。しかし、ひきこもりの背景には、不登校や発達障害、精神的な不調、家庭環境など、さまざまな課題が複雑に関係している場合があります。
そのため、相談を受ける中で、私自身の知識や経験だけでは十分に対応できない問題に直面することもありました。
これまで私は、相談に来てくださった方に対して「よく来てくださいました。一緒に解決していきましょう」という姿勢で接してきました。
しかし、中には、私自身の力量を超えているにもかかわらず、相談を引き受けてしまったケースもあります。
その結果、本人や家族に解決への期待を抱いていただきながら、その期待に応えることができず、かえって苦しめてしまったことがありました。
期待が大きかったからこそ、突き落とされたような気持ちになったご家族も実際にいらっしゃいました。
これは、支援者として真摯に反省し、必ず改善しなければならない問題だと考えています。困っている人を受け止めたいという気持ちだけでは、適切な支援はできません。
相談を断らないことと、責任を持って支援することは、必ずしも同じではないのだと思います。
今後は、相談の初期段階で、Nienteが対応できることと、専門的な支援が必要なことを見極め、本人や家族に正確にお伝えする必要があります。
そのうえで、専門外の相談については、信頼できる専門職や専門機関と協力していきます。
ただし、単に別の相談先を紹介して終わるのではなく、本人や家族が希望する場合には、必要な範囲で連携を継続できる関係を築きたいと考えています。
また、活動の認知度が高まるにつれて個別相談も増え、私生活の時間にまで対応が及ぶこともありました。
活動を長く継続するためにも、相談の受け方や対応範囲を見直していきます。残り半年間は、自分たちにできること、できないことを明確にし、相談者に過度な期待を抱かせない支援体制を整えていきます。
3.まとめ|残り半年間で取り組むこと
3カ年計画の1年目も、折り返し地点を迎えました。この半年間で、支援者同士の学びや地域連携については、当初の想定以上の手応えを感じています。
一方で、本人や家族への直接的な支援については、まだ十分にニーズに応えられていない可能性も見えてきました。
また、自分たちの力量を超える相談まで引き受けてしまったことは、必ず改善しなければならない課題です。
そこで、残り半年間は新しい活動を増やすことよりも、これまでの取り組みを見直し、支援の質を高めることに力を入れていきたいと思います。
特に、次の3つの仮説を検証していきます。
① 本人と家族、それぞれに独立した支援の道が必要ではないか
家族への支援によって家庭環境が改善することは、本人にとっても良い影響をもたらす可能性があります。
しかし、家族が望む解決と本人が望む人生は、必ずしも一致しません。家族への支援を優先することで、かえって本人との関係が悪化したり、本人が支援から遠ざかったりする可能性もあります。
そのため、家族への支援と本人への支援を並行して行うことが必要だと考えています。
家族には専門的な支援につながる機会を、本人には家族の変化を前提とせず、自分の意思で活動や生き方を選べる機会を提供する。それぞれの希望を尊重しながら、必要に応じて連携する方法を検証していきます。
② 専門機関との継続的な連携によって、支援の質を高められるのではないか
今回の反省を踏まえ、Nienteが担うべき役割を改めて整理していきます。
当団体の強みは、ひきこもり経験者として本人や家族の話を受け止め、安心して関われる場をつくることです。
一方、解決力には課題が大きく、専門的な知識や対応が必要な問題については、それぞれの分野に強みを持つ専門職や専門機関と協力する必要があります。
大切なのは、何でも引き受けることではなく、相談者が必要としている支援に適切につながることです。
今後は、相談の初期段階で対応できる範囲を明確にし、必要に応じて専門機関と連携する仕組みを整えていきます。
また、相談先を紹介して終わるのではなく、本人や家族が希望する場合には、必要な範囲で協力を継続できる関係を目指します。
今年度のハンドブック勉強会で生まれた支援者同士のつながりも、こうした取り組みに生かしていきたいと考えています。
③ 本人が選べる環境を増やすことで、自分らしい生活につながるのではないか
本人の回復は、必ずしも就労や社会参加だけで測れるものではありません。
本人が興味を持てることを見つけたり、新しい人間関係が生まれたり、日常生活の中に楽しみが増えたりすることも、大切な変化です。
居場所や「居場所の半歩先」の活動を通じて、本人が自分で選べる機会を増やしていきたいと考えています。

そのためにも、参加人数や継続率だけで活動を評価せず、本人の希望や活動中の様子を丁寧に観察しながら、取り組みを改善していきます。
また、10月に予定している福岡県庁での啓発展示についても、開催後に福岡県ひきこもり地域支援センターと振り返りを行い、来年度に向けた改善点を整理する予定です。

おわりに
これらの仮説が正しいかどうかは、まだ分かりません。今後の活動を通じて、うまくいったことだけでなく、想定どおりに進まなかったことや、新たに見えてきた課題についても共有していきたいと思います。
私たちは、あらゆる問題を解決できる団体を目指しているわけではありません。自分たちにできることと、できないことの両方を理解し、地域にあるさまざまな支援の力を活用すること。
そして、本人と家族それぞれの希望を尊重しながら、必要な支援を選べる環境を整えること。
残り半年間は、活動を広げることよりも、一つひとつの支援の質を高め、次年度につながる持続可能な支援の形を模索していきます。

