「八おき塾」ひきこもり支援団体の紹介

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福岡県で活動される「ひきこもりの支援団体」をご紹介します。ご紹介する団体は、代表者や職員に直接お会いした場所を選んでいます。実際に見聞きしたことをもとに、ひきこもり当事者としての視点から、団体の活動内容や特色をお伝えしています。

私は、ひきこもり期間は「支援機関」や「支援団体」の存在すら知りませんでした。その経験から、現在ひきこもりに悩む方々も同じ状況の可能性があると考え、支援団体のご紹介をすることにしました。ひきこもりの方やその家族の方々に、新たな繋がりや支援の場所として、選択肢が広がれば嬉しく思います。

今回ご紹介する団体は
『八おき塾(一般社団法人福岡わかもの就労支援プロジェクト)』

本記事は、八おき塾様(以下、敬称略)に許可をいただいて、執筆及び画像使用をしております。

「八おき塾の目的」

「八おき塾」は、若者たちが笑顔と自信を取り戻す場所として、活動しています。名前の由来は、「何回も転びまくったあとは、立ち上がり前を向いて歩いていくだけ」というメッセージが込められ、「七転び八起き」からきています。

団体の活動の目的は、大きく2つあります。

  • 若者の自己肯定感や自信の回復を目指す
    若者たちが自分自身を肯定し、前向きに自己実現を目指せるような場を提供しています。
  • 働くための力の向上
    仕事に必要なスキルや知識を身につけることで、就職や転職のサポートを行っています。

「八おき塾」では、若者たちが楽しく学べるよう、様々なイベントや資格取得の機会も用意されています。若者に寄りそったコーチングを密に行っているので、安心して利用することができます。困難な状況からでも、七転び八起きの精神で前向きに歩んでいけるよう、サポートをしてくれる団体です。

「活動内容」

主な活動としては、出荷作業と昼食作りを行っています。出荷作業は、模擬実習ではなく、本当の仕事です。作業後は、自分たちの昼食を自分たちで作ります。そして、食事後には、必要に応じてコーチングの時間が設けられています。

ひきこもり経験者である私は、このプログラムが非常にシンプルな構成であるにもかかわらず、効果的だと感じました。実際の仕事を行ったり、昼食を作ることで、できることが増え、自信に繋げられるように感じました。

私自身の経験ですが、何もしていないときが最も不安でした。当時は、何もしないことで、できないことが増えていき、自信を失っていくという悪循環に陥っていました。

受講生たちは八おき塾に参加することで、何か行動を起こし、コーチから褒められることで、自信が育まれ、次の行動に繋がることが理解できました。

このようなひきこもり支援プログラムを設計した背景には、団体の代表者である鳥巣正治さんの、会社員時代のコーチング経験があります。以降、鳥巣さんについて触れていきます。

代表理事:「鳥巣 正治さん」の紹介

代表者の鳥巣正治(とす まさはる)さんは、「人は育とうとする生き物」という信念を持つ育成のスペシャリストです。会社員時代には、500人以上の採用や育成に関わっていました。鳥巣さんは、新入社員の頃に自分自身が受けたコーチングの効果に驚いたと語ります。その後、自らも後輩育成にコーチングを使い、コーチングの経験に磨きをかけていくこととなります。そして、現在はその経験をひきこもり支援に適用させています。鳥巣さんのコーチングは、会社員時代に現場で実践を通して習得し、その期間は数十年に及んでいます。単にコーチングの本を読んで試す程度のものではありません。

八おき塾の特色として、生徒とコーチの関係は対等の関係にあります。「できない人」「やらない人」といったレッテルを貼ることはありません。また、鳥巣さんは、「支援」という言葉に疑問を感じています。鳥巣さんによれば、その言葉は「できない人」というレッテルを貼り、成長に蓋をしてしまうようなニュアンスを持っているとのことです。さらに、「当事者」という言葉も使わないと言います。理由は、「悪いことをした人」のように感じられるからとのことです。

また、鳥巣さんは会社員時代は多くの採用経験を持ち、「受かる履歴書の書き方」にも精通しています。八おき塾の若者が履歴書を書くときには、その知識が活きることでしょう。鳥巣さんは「親には厳しい」一面がありますが、自分が変わってでも子を助けたいと願う親御さんにとっては、非常に頼りになる存在に映ると思います。

どのような人が利用しているか

八おき塾は、15〜39歳の若者を対象としています。主にひきこもり経験者や学校に行かなくなってしまった若者などが利用しています。八おき塾が目指しているのは、若者たちの自信を回復させ、社会に送り出すことです。これは、若者たちのひきこもりが深刻化・長期化の状況に陥る前に、サポートすることが大切だと考えているからです。

八おき塾では、お花見などのイベントを若者自身で企画運営しています。このようなレクリエーション運営も自信を取り戻すきっかけの1つとなっています。そうした日常の中で行われる支援が、若者たちの社会復帰へとつながっていると考えられます。

どのような支援が提供されているか

八おき塾では、若者、一人暮らしの方、そして母親に向けた支援を行っています。ひきこもり当事者の支援団体や、親の自助グループは検索すれば見つけやすいと思います。私が知る限り、福岡県内では「一人暮らし支援」や「母親に向けた支援」まで行っている団体は他に知りません。以下、それぞれの詳細に触れていきます。

若者支援

八おき塾では、目標設定を行い、6ヶ月後にどうなりたいかを明確にすることで、一歩ずつ成長していくようにサポートしています。小さな成功体験を積み重ねることで、自信を持ち、自分自身の成長を実感できる仕組みをとっています。

また、八おき塾は、親子関係による感情の入り込みを避けるため、第三者であるコーチによる承認やフィードバックを積極的に取り入れています。親子関係にはどうしても感情が入ります。「親が言うから聞き入れられない」「子の言う事だから、心配からつい否定してしまう」これは実際にあるように感じます。八おき塾は、第三者による承認やフィードバックを通じて、若者の自信を繋げることを大切にしています。

八おき塾(福岡わかもの就労支援プロジェクト)

一人暮らし支援

ひきこもり当事者の中には、家族との関係がうまくいかないケースがあります。八おき塾では、一人暮らしを促すことで、自立を促進しています。遠方から一人暮らしを希望される方には、八おき塾に通うことができる距離の物件探しもサポートしています。一人暮らしをすることで、新しい環境に身を置き自己成長が促進されることもあります。

実際に、八おき塾にお子様を預けたご家族とお話ししたことがあり、一人暮らしをしてから息子が変わった」というお話を聞いたことがあります。

八おき塾(福岡わかもの就労支援プロジェクト)

母親支援

八おき塾では、子供が自分から動かない場合、親自身が意識を変えて動くことが大切だと考えています。親自身がコーチングを受けることで、子供にも変化が現れることがあるようです。また、子供との接し方を変えることで、親子関係が改善し、八おき塾に通うことができるようになるケースもあります。

鳥巣さんは、「子供に失敗させる」ことが大切だと説いています。人は成長の過程で、失敗がつきものです。特に社会では、周囲に助けを求めながら自己解決する力が必ず必要になってきます。この力を育まなくては、ひきこもりから抜け出した後、社会復帰しても再度挫折してしまう可能性があります。

適切に失敗経験を積むことで、子供が自らの経験で成長し、自己肯定感を高めることができます。親が先回りすることで、子供の貴重な経験を奪ってしまうことを「経験泥棒」と呼ぶ鳥巣さんの言葉は、八おき塾の支援の基盤となっています。

八おき塾(福岡わかもの就労支援プロジェクト)

八おき塾の特徴や強み、実績

ひきこもり支援については、その効果が出にくいと言われています。しかし、八おき塾では、そのような厳しい現実にもかかわらず、毎年卒業生を輩出しています。そこで、八おき塾の特徴や強み、そして実績についてご紹介します。

団体の特徴

八おき塾は、若者支援に特化しています。そのため、若者たちが抱える悩みや問題に対して、深く理解していると言えます。また、親へのコーチングにも力を入れています。親が子どもと接する上でのアドバイスは、非常に重要な役割を果たしています。

強み

八おき塾のコーチ陣は、豊富なコーチング経験を持っています。ひきこもり当事者が抱える問題や課題に対して、的確なアドバイスを提供することができます。また、出荷作業を通じて、ひきこもり当事者に、働く上で必要なスキルを教えています。実際に、入塾当時は電話に出ることができなかった若者が、他者と話せるようになり、アルバイトを経験し八おき塾を巣立っています。

また、出荷作業は、本当の仕事であるため、履歴書に「職歴」として書くことができます。ひきこもり当事者は、職歴に空白期間があり、就職活動の大きな障害となっています。八おき塾では履歴書に書くことができる「職歴」を作ることができるため、就職活動において非常に有利な状況を作ることができます。

実績

2023年4月時点で、八おき塾は59名の卒業生を送り出しました。ひきこもり支援については、その効果が出にくいと言われている中、毎年卒業生を輩出している実績は目を見張るものがあります。卒業生の中には、大学に進学し、学校の先生にまでなった人もいます。

「八おき塾」への参加方法や連絡先

一般社団法人福岡わかもの就労支援プロジェクト
〒812-0007福岡市博多区東比恵2-7-33西原ビル3階
携帯:080-5456-6060(代表理事:鳥巣正治)
メール: tosu_1000000@yahoo.co.jp
ホームページ: http://fukuoka-wakamono-pj.org/
公式ライン:https://line.me/R/ti/p/%40432ifnuh

八おき塾の特集記事

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(4ページ目) 大卒者の13人に1人が、ニートや無職になっているという現実を、どれだけの人が知っているだろうか。理由はさまざまだが、人間関係を構築するのが極端に苦手...

(引用元:AERA dot. )

若者が転んでも立ち上がり、前を向いて歩き出せるようにサポートする団体
八おき塾(福岡わかもの就労支援プロジェクト)は、コーチングで引きこもり・ニートの社会復帰を支援している団体です。生きづらさを感じている方や社会復帰に不安のある方など、18歳から39歳までの若者に対して支援を行っています。

(引用元:ハタラクティブ)

自信をもたせ、自立につなげる――「福岡わかもの就労支援プロジェクト」 代表・鳥巣正治さん - 次世代価値コンソーシアム
九州にある「福岡わかもの就労支援プロジェクト」の事務所でのこと。そこに、ひきこもりとなって就労に一歩が踏み出せ

(引用元:一般社団法人 次世代価値コンソーシアム)

取材を終えて

八おき塾の印象

初めて訪れたときの印象は、「受講生たちが明るい」というものでした。自分自身がひきこもり当事者だったため、少し暗いイメージを持っていたのですが、期待を裏切られるほどに明るい雰囲気に包まれていました。

取材当日の昼食には、若者たちが自分たちで調理した「天ぷらうどん」をご馳走になりました。彼らはスマホで調べながら様々な料理を作り、ルーを使わずにハヤシライスを作ることもあったと言います。一緒に昼食をとりながら、若者が趣味や将来の夢を語る姿を目の当たりにしたとき、彼らはそこらにいる若者と何も変わらないと感じました。

ひきこもり支援に思う事

私はひきこもり支援には、「当事者が自ら動くのを見守る姿勢」が大切だと思っていますが、その「待ちの姿勢」が問題をこじらせているケースもあると感じています。もちろん、何か活動をする前には安静にしなくてはいけない期間があります。心と体を十分に休める必要があることは前提です。

しかし、回復期が終わっても無気力に過ごしていくことは、経験上お勧めできません。なぜなら、無気力に拍車がかかって、できていたことさえ本当にできなくなってしまうことがあるからです。私はひきこもり経験者として、「本人のできる範囲内で頑張ることは必要」と思っています。「無理しないでいいよ」という言葉は、長期化・深刻化を助長させる一面があると思っています。

長期化・深刻化を助長する「無理しないでいいよ」という言葉よりも、「楽しい無理」が当事者にとっては必要だと考えます。そしてその楽しさを、既存の学校や会社の価値観に当てはめず、当事者が選択できる環境を作り出すことが大切だと感じます。

八おき塾では、若者たちの好奇心や主体性を刺激し、自分たちで調理した料理を楽しく食べたり、趣味や将来の夢について話し合ったりすることで、「楽しい無理」ができる環境を提供しているように見えました。

私は八おき塾の取り組みを、常識や既存の支援の形にとらわれない新しい支援の形として、注目しています。企業が行っている「人材育成」の手法を上手く活用することで、若者たちの可能性を引き出すことができると感じました。

今後も、八おき塾のような新しい支援の形が増え、多様な支援が当事者たちの可能性を広げることに繋がっていくことを願っています。

お知らせ

今後も、支援機関や支援団体の活動内容をご紹介させいただきたいと考えています。ご希望される団体は取材にお伺いいたします。執筆料や取材料は一切かかりません。お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。