先日参加した「日本思春期青年期精神医学会」で得た、新しい知見や気づきを共有したいと思います。
この学会を通じて、ひきこもりに限らず、自閉スペクトラム症や現代型うつに関する意外な事実、ひきこもり支援活動の新たな取り組み方や専門家との対話での学びなど、多くの収穫がありました。
特に、居場所作りのポイントや支援活動の適切性について深い洞察を得ることができました。本記事では、その詳細と今後の活動への影響についてお伝えします。
参加の背景
Nienteが日々行っているひきこもりの支援活動の中で、精神医学や「居場所」についての知識不足に課題を抱いていました。
私自身、真剣に学びたいという想いと、せっかくの機会なので知りたいことはしっかり質問して帰りたいという意気込みで、この学会への参加を決意しました。
特に、専門家たちが「居場所」という言葉をどのように定義し、そのもとでどのような対応やアプローチが取られているのかを知ることは、Nienteの活動の質をさらに高めるために不可欠だと感じていました。
学会で得た3つの収穫
学会参加を通して、Nienteの活動にとって重要な収穫を得ることができました。以下、その主要な3つをご紹介します。
- 多様な精神医学の理解を深めることができた
ひきこもりだけでなく、自閉スペクトラム症や現代型うつに関しても新しい知見を得ることができました。特に驚きだったのは、自閉スペクトラムを持つ人の43%がうつを抱えていることや、現代型うつは抗うつ薬の効果が現れにくいことなどでした。このような情報は、ひきこもりの背後に潜む様々な精神的課題の理解を一層深める手助けとなると感じています。 - 自らの支援活動の適切性を再確認
学会を通じて、私たちの取り組みがどれほど適切であるのかを検証する機会となりました。その結果、支援者の安全の確保の重要性や、安心できる交流の場の持ち方など、さまざまな気づきを得ることができました。 - 専門家との直接対話の価値
学会では思春期や青年期の精神医学の専門家たちと直接対話することができ、多くの有益なアドバイスやエピソードを聞くことができました。特に「支援者自身が健全であることの重要性」や「人が変わるには時間がかかる」というメッセージは、我々の活動において深く心に刻むべき言葉と感じました。
以上の収穫は、これからのNienteの活動において大きな指針にしていきたいと思います。今後も学び続け、より質の高い支援を目指してまいります。
学会1日目の学びと収穫
学会の1日目に参加し、その日に得られた学びは私たちの活動において貴重なものとなりました。以下、その主要な内容をまとめます。
- ひきこもり経験者の役割と可能性
宮崎県にて、ひきこもり経験者が回復後に20年以上にわたりピアサポート活動を続けている事例を知ることができました。その話を通して、経験者が持つ独自の視点や共感力が、どれほど支援活動において価値あるものであるかを再認識しました。実際、多くの経験者が支援側として活躍するケースがあり、社会福祉士の取得など、プロフェッショナルとしてのスキルも身に付けていることが印象的でした。 - うつ状態における言葉の影響
自分自身がうつだった頃の言動の背景やその理由についての深い理解を得ることができました。特に、「このままでは人生がダメになるよ」という言葉が、ひきこもっている人にとっては休息を取ることさえできないほどの重圧となることを再確認しました。このような体験を踏まえて、私たちの支援活動におけるコミュニケーションの在り方を再考する必要があると感じました。
学会2日目の学びと収穫
学会の2日目は、さらに深い洞察と有意義な議論が交わされる場となりました。以下にその主要な内容をまとめてご紹介します。
- 支援者の心身の健康の重要性
支援活動を行う上で、支援者自身の心身の安全と健康が非常に大切であることが強調されました。心身ともに健全でなければ、質の高い支援を継続的に提供することは難しいとのアドバイスも直接いただくことができました。 - 「居場所」の定義と重要性
「居場所」という言葉の背後にある意味や価値について深く掘り下げるセッションが行われました。居場所は単に安全である場所だけでなく、ネガティブな体験を意味のあるものに変えられる環境を指すとの定義がなされました。そして、そうした居場所の構築には、失敗を許容する文化や環境作りが不可欠であるとの共通認識が得られました。 - 社会的背景の影響
個人の行動や価値観が、現代社会の背景や文化にどれほど影響を受けているかについての議論が展開されました。特に、米国的な個人主義の価値観が日本に浸透している影響についての見解が興味深かったです。 - 教育現場の現実
教師や福祉施設の職員が日々直面する困難やストレスについての実態が明らかにされました。多くの教育や福祉関係者が、同僚や上司、保護者からの圧力に苛まれているとの実態を知ることができました。また、私が「極端に心身の負担を回避することで、ひきこもりの長期化の要因となってはいないか」との質問を投げかけたところ、「ぼちぼちやろう」という言葉を通じて、無理せず、できる範囲での活動を重視する姿勢を提示していただきました。
2日間の学会を通じて、多岐にわたるテーマから得られた学びは、Nienteの活動に新たな視点と方向性をもたらすものとなりました。
おわりに
この学会に参加することで、ひきこもり問題だけでなく、さまざまな精神的課題に対する深い理解と知識を得ることができました。特に、支援者自身の健康や「居場所」の重要性、教育や福祉現場の現状把握は、今後のNienteの活動において大きな指針となるでしょう。
そして、何より、医師でない私がこのような学会に出席し、多くの専門家と対話する機会を得られたことに、深い感謝の気持ちでいっぱいです。特に、学会の大会会長である九州大学の加藤先生をはじめ、多くの方々からの温かいサポートに心から感謝しております。
Nienteとしては、今後も学んだ知識を活動に生かし、より多くの人々の支援に努めてまいります。最後に、これまで支えてくださったすべての方々へ、心よりの感謝を申し上げます。